「全国民に告ぐ!我々は全日本社会主義革命戦線!我々は今現在この国に蔓延する軍国主義・資本主義を真に憂い、ここに日本社会主義人民共和国の建国を宣言する!」
全日本社会主義革命戦線と名乗る反乱組織は首都圏において陸軍の一部部隊を巻き込んだ大規模な反乱を起こした。世に言う帝都革命事変である。
−その数年前。
「君達は希望を胸に抱いてこの学び舎の門をくぐった事だろう」
士官学校教官・赤城悠長は言った。
「現実の戦場はあまりにも過酷であり、絶望にくれる事もあるかもしれない。だが、入学時の大志を忘れないで欲しいのだ。君達には、それを叶えるだけの実力があると私は信じている」
そこで話が終わっていれば、実に感動的な場面だったのだが。
「赤城教官!」
一人の生徒が挙手した。
「何かね?」
「赤城教官は何故軍に志願されたのですか?」
その問いに、赤城は迷う事無く答えた。
「ソヴィエト軍とか好きだからー!!」
教室が凍った。
「赤城少将閣下!」
若い中尉は返事を待たずにドアを開け放った。5名の部下が続いて部屋になだれ込む。
「どなたです?」
赤城の隣の席に座っていた銀髪の美女が鋭い声を上げた。人型電算機参謀、愛称『丸楠』である。彼女の愛称は上司である赤城がつけたものであった。かのカール・マルクスが命名元である事は、彼の『変わった』趣味を知らぬものでも容易に想像がつくものだった。
赤城は片手を軽く上げ、丸楠を制した。そして侵入者に顔を向ける。懐かしい顔だった。
「おや円下留守くん、士官学校の卒業式以来だな。新しい遊びかね?」
「違います!!」
かつての教え子は力の限り否定した。
「閣下!先ほど全日本社会主義革命戦線と名乗る反乱軍が蜂起しました!」
「革命か。それは夢のある話だ」
中尉は一瞬ぽかん、となったが、すぐに銃口を赤城に向けた。
「『革命は銃口から生まれる』ある革命家の至言だね。ふむ、君も革命軍一味かね?」
「違います!!」
円下は力いっぱい否定した。
「我々は閣下を反乱分子として拘束しに来たのです」
「えー、なんで?」
「な、『なんで』って……おっしゃられても」
赤城は肩をすくめた。
「私は反乱分子じゃないよ」
「は?」
赤城の独特なノリになんだか挫けそうになりつつも、憲兵は言った。
「……閣下は反乱分子に加担してないとおっしゃる?」
「当たり前だろう」
かつての教官は『君は何を言っているんだ?』と言わんばかりの顔をした。
「もし日本が共産化したら、ソヴィエト軍と戦えなくなるじゃないか」
「……」
もの凄い理屈であるが、不思議と説得力があった。
「というのはもちろん冗談だ。私は確かにソヴィエトが好きだが、仰ぐ旗は間違えていないつもりだよ」
「……」
円下中尉は、黙ったまま銃を下ろさない。
「やれやれ、信じてくれんかね?まあ仕方ないかな」
赤城一門に著名な共産主義者がいる事は有名だった。というか、赤城の場合日ごろの言動がアレであるためか。
「申し訳ございません、これも仕事ですゆえ」
「ふむ……まあ、人生一度は逮捕されてみるのも一興かな。丸楠君、懐の銃を床に捨てたまえ」
「……はい」
銀髪の女性はあっさりと従い、隠し持っていた銃を床に落とした。