2006年01月05日

序章

「こちらでございます」
「は、はい」
 家令に案内され、貴彦は緊張した面持ちで扉を叩いた。
「油津子爵、伊勢崎貴彦です」
「入りなさい」
 穏やかな声が返ってきた。
 その声の主こそ、皇帝の股肱の臣にして、唯一大公爵の位階をゆるされた伊勢崎家当主伊勢崎幸繁である。
 貴彦の出身である油津伊勢崎家は大貴族の伊勢崎家に名を連ねてはいるものの傍流もいいところで、一族の総帥に招かれる機会などめったにない。
「し……失礼いたします」
 おそるおそる貴彦は部屋の中に入った。

 帝国一の大貴族にしては、かなり質素といえる部屋。そこに一組の男女が待っていた。
 伊勢崎幸繁とその妻ルティアである。「館林君とはうまくいっているかね?」
 いきなり、幸繁は気さくな調子で聞いた。
「え、ええまあ」
 幸繁には控えめな表現をしたが、館林龍那との関係はかなりよくなった、と貴彦は思う。
 ちょっと罵られたり嫌味を言われたり殴られたり蹴られたりはするが、さほど深刻なものではない。むしろ、龍那がなにかと理由をつけて構ってくるのがなんだか嬉しかった。
「そうか、それはよかった」
 大公爵は笑った。それが冷笑や嘲笑の類でないことに貴彦は安堵した。
posted by 蒼野青 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 電算司令部 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。